熱処理は、ウェーハを加熱して酸化、結晶回復、不純物活性化、膜質改善、応力緩和を行う工程である。半導体プロセスでは、熱を加えるだけで多くの反応が進む。だからこそ、温度、時間、雰囲気、昇降温速度を厳密に管理する必要がある。
熱処理の難しさは、望む反応と望まない拡散が同時に起きる点にある。結晶欠陥を直すために高温にしたいが、ドーパントが広がると浅い接合が崩れる。膜を緻密にしたいが、下層材料が変質すると配線やトランジスタが壊れる。
代表的な目的
熱処理は工程の目的によって分類できる。
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 酸化 | シリコン表面に を作る |
| 活性化 | イオン注入したドーパントを電気的に有効にする |
| 結晶回復 | 注入やエッチングで壊れた結晶を回復する |
| 膜質改善 | CVD 膜の密度、欠陥、水素量を調整する |
| シリサイド形成 | 金属とシリコンを反応させ低抵抗接点を作る |
| 応力緩和 | 成膜応力や加工応力を緩和する |
同じ温度でも、酸素中、窒素中、水素中、真空中では起きる反応が違う。熱処理は加熱炉だけでなく、雰囲気制御を含む化学プロセスである。
炉アニール
炉アニールは、多数のウェーハを石英チューブなどの炉に入れ、比較的長時間加熱する方式である。均一性に優れ、大量処理に向く。
古典的な拡散工程、厚い酸化膜形成、膜質改善などで使われる。処理時間が長いため、熱拡散も進みやすい。微細なトランジスタで浅い接合を保ちたい工程では、長時間の高温処理は使いにくくなる。
RTA
RTA は Rapid Thermal Annealing の略で、ランプ加熱などにより短時間だけ高温にする方式である。数秒から数十秒の処理で、ドーパント活性化やシリサイド形成に使われる。
短時間で済ませることで、ドーパント拡散を抑えながら必要な反応を進められる。さらに短い熱処理として、スパイクアニール、フラッシュランプアニール、レーザーアニールなどもある。
ドーパント活性化
イオン注入された不純物は、注入直後には結晶格子を壊しており、電気的に有効な位置に入っていないことが多い。アニールによって結晶を回復させ、不純物原子をシリコン格子の置換位置に入れると、電子や正孔を供給できるようになる。
ただし、不純物は熱で拡散する。特に浅いソース/ドレイン拡張やハロードーピングでは、少しの拡散がしきい値電圧や短チャネル効果に効く。熱処理条件は、活性化率と拡散量のトレードオフになる。
酸化と界面
熱酸化では、シリコン表面に高品質な酸化膜を作れる。酸化膜とシリコンの界面欠陥が少ないことは、MOSFET のしきい値、移動度、信頼性に直結する。
現在の先端ゲートでは high-k/メタルゲート構造が使われるが、それでもシリコン界面の薄い酸化層や熱履歴は重要である。熱処理によって界面準位、固定電荷、膜中欠陥が変わる。
サーマルバジェット
プロセス全体でウェーハが受ける熱履歴をサーマルバジェットという。個別工程では問題がなくても、後続工程の加熱で不純物が再拡散したり、膜が結晶化したり、応力が変化したりする。
特に BEOL では、下層に金属配線や low-k 絶縁膜が存在するため、高温処理が制限される。前工程の高温処理と後工程の低温処理は、材料選択と工程順序を決める大きな制約になる。
熱処理は地味に見えるが、材料の状態を決める工程である。半導体プロセスでは、形を作るだけでなく、その材料がどの結晶状態、欠陥状態、電気状態にあるかまで制御する必要がある。