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シリコン

半導体ウェーハができるまで

半導体工場で最初に扱う「基板」は、ただの薄い板ではない。結晶の向き、不純物濃度、表面の平坦さ、欠陥密度まで管理された単結晶シリコンウェーハである。以後のリソグラフィや成膜は、このウェーハの上に何十回、何百回と薄膜やパターンを積み上げていく作業になる。

シリコンが半導体の主役になった理由は、単に地球上に多いからではない。

  • 酸化すると高品質な SiO2 ができ、絶縁膜として使いやすい
  • バンドギャップが室温動作にほどよく、熱で勝手に電流が流れすぎない
  • ホウ素、リン、ヒ素などの不純物で P 型/N 型を精密に作れる
  • 単結晶を大口径で作る量産技術が成熟している

特に SiO2 を自分自身の酸化で作れる点は重要で、MOSFET のゲート絶縁膜や素子分離の歴史を支えてきた。

採掘

原料は砂や石英に含まれる二酸化ケイ素 SiO2 である。半導体工場で使うシリコンはここからすぐ作れるわけではなく、まず電気炉で炭素と反応させ、金属級シリコンにする。

SiO2+2CSi+2CO

この段階のシリコンは純度が高そうに見えても、半導体にはまだ全く足りない。金属不純物が少し混じるだけで、リーク電流、酸化膜欠陥、pn 接合の寿命低下につながる。半導体用の材料では「ほとんど純粋」ではなく、原子レベルでどの不純物がどれだけあるかが問題になる。

精製

金属級シリコンは化学反応で揮発性の化合物に変え、蒸留によって不純物を分離する。代表的にはトリクロロシラン SiHCl3 やモノシラン SiH4 を経由し、最後に熱分解して高純度の多結晶シリコンを得る。

多結晶シリコンは棒状や塊状の原料として単結晶炉に投入される。この時点でも「純度」だけでは不十分で、炭素、酸素、金属、ドーパントの混入量がロットごとに管理される。たとえば意図しないホウ素が混じれば P 型に寄り、リンが混じれば N 型に寄る。デバイスメーカーは必要な抵抗率に合わせて、単結晶成長時にドーパントをわずかに加える。

単結晶成長

多結晶シリコンを溶かし、種結晶を接触させて同じ結晶方位のまま引き上げると単結晶インゴットができる。量産で広く使われるのは引き上げ法 CZ () である。

  1. 石英るつぼの中で多結晶シリコンを溶かす
  2. 種結晶を溶融シリコンに接触させる
  3. 回転させながらゆっくり引き上げる
  4. 直径、抵抗率、結晶方位を制御しながら円柱状のインゴットにする

チョクラルスキー法は大口径化しやすく量産に向く。一方で石英るつぼ由来の酸素が結晶中に入るため、酸素濃度の管理が必要になる。酸素は欠陥の原因にもなるが、金属不純物を捕まえるゲッタリングに役立つ場合もある。

より高抵抗で不純物の少ない結晶にはフロートゾーン法が使われることがある。高周波加熱で局所的に溶かした領域を移動させるため、るつぼに触れずに結晶を作れる。パワーデバイスや高周波用途では有利だが、大口径化やコストの面ではチョクラルスキー法と使い分けられる。

切断

インゴットはそのままでは使えない。ウェーハ工場では、まず外周研削で直径をそろえ、結晶方位を示すノッチやフラットを入れる。その後、ワイヤーソーで薄くスライスする。

スライス直後のウェーハには、厚みむら、反り、切断ダメージ、表面の微小なクラックがある。ここから先の工程は、ウェーハを薄くするだけでなく、後工程の基準面として使えるほど平坦にするための加工である。

研磨

切断後のウェーハは、ラッピングや研削で厚みむらを減らし、化学エッチングで加工ダメージ層を取り除く。最後に CMP で鏡面研磨し、清浄な表面に仕上げる。

代表的な流れは次のようになる。

  1. ラッピングや平面研削で厚みをそろえる
  2. エッジを丸めて欠けや割れを防ぐ
  3. 化学エッチングでダメージ層を除去する
  4. CMP で表面を鏡面化する
  5. 洗浄、乾燥、梱包を行う

表面の凹凸は後のリソグラフィの焦点ずれや配線断線につながる。微細化が進むほど、ウェーハの平坦さは単なる見た目ではなく、露光装置の性能を使い切るための前提条件になる。

特殊なウェーハ

通常のバルクシリコンのほかにも、目的に応じて加工済みのウェーハが使われる。

種類概要用途の例
エピタキシャルウェーハ表面に高品質な単結晶層を成長させたものCMOS、パワーデバイス
SOI絶縁膜の上に薄いシリコン層を持つもの高速・低消費電力、RF、MEMS
高抵抗ウェーハ抵抗率を高くしたものRF、センサ

エピタキシャル層は、基板本体とは別の抵抗率や欠陥密度を持たせられる。SOI は素子を絶縁膜で基板から切り離せるため、寄生容量やリークを減らす設計に使われる。

検査

ウェーハは高価な材料なので、プロセスに投入する前に多くの検査を受ける。

  • 厚み、反り、TTV: ウェーハ全体の厚みむら
  • 平坦度: 露光時の焦点合わせに関わる
  • 表面粗さ: 薄膜の均一性や界面欠陥に関わる
  • パーティクル: 1 個の粒子が配線ショートや断線の原因になる
  • 抵抗率: ドーパント濃度の指標になる
  • 結晶欠陥: 転位、酸素析出、スリップなど
  • 金属汚染: pn 接合リークや酸化膜信頼性を悪化させる

半導体製造では、後工程に進むほど一枚のウェーハに投入済みの価値が大きくなる。最初の材料段階で欠陥を見逃すと、何週間も加工したあとで歩留まりとして跳ね返ってくる。シリコンウェーハは「安定した土台」であり、以後の全工程の基準面でもある。