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相変化を伴う熱力学

液体と蒸気が共存する領域の状態量と潜熱を整理します

相変化を伴う熱力学では、温度と圧力だけでは状態が一意に決まらない二相共存領域を扱います。蒸気機関、蒸気タービン、冷凍機を読むには、乾き度、潜熱、飽和線を避けて通れません。

なぜ相変化を使うのか

水や冷媒を使うサイクルでは、気体だけを温めたり冷やしたりするのではなく、沸騰と凝縮を利用します。 相変化を使う利点は、大きな熱量をほぼ一定温度で受け渡しできることです。 蒸気タービンではボイラで水を蒸発させ、ヒートポンプでは蒸発器と凝縮器で冷媒を相変化させます。

熱機関の効率を考えると、高い温度で熱を受け取り、低い温度で熱を捨てるほど有利です。 一方、冷凍機やヒートポンプでは、低温側と高温側の温度差が小さいほど COP が高くなります。 相変化は温度が安定するので、熱交換器の温度差やサイクルの平均温度を設計しやすくします。

相図

  • 飽和液、湿り蒸気、乾き飽和蒸気、過熱蒸気
  • 乾き度と混合状態量
  • 潜熱と顕熱
  • 𝑇𝑠 線図と 𝑠 線図

𝑝𝑣 線図や 𝑇𝑠 線図で水を描くと、液体と蒸気の共存領域はドーム状になります。 左側の境界は飽和液線、右側の境界は乾き飽和蒸気線です。 ドームの内側では液体と蒸気が同時に存在し、圧力を決めると温度も飽和温度として決まります。 つまり二相域では、温度と圧力だけでは液体が多いのか蒸気が多いのかを区別できません。

そこで乾き度 𝑥 を使います。 乾き度は全質量のうち蒸気である割合で、

𝑥=𝑚𝑔𝑚𝑓+𝑚𝑔

です。𝑥=0 は飽和液、𝑥=1 は乾き飽和蒸気、0<𝑥<1 は湿り蒸気です。

飽和ドームの読み方

飽和ドームを読むときは、まず状態点がドームの外か内かを見ます。 左側の圧縮液域では、液体の比体積は小さく、圧力を上げても体積はあまり変わりません。 右側の過熱蒸気域では、気体としての温度上昇や圧力低下を追います。 ドーム内では乾き度が状態を決める追加情報になります。

𝑇𝑠 線図では、ドームの内側を横切る水平に近い線が沸騰・凝縮です。 同じ圧力で沸騰している間は温度が一定なので、熱を加えるとエントロピーが増え、状態点は右へ進みます。 逆に凝縮器では、蒸気が液体へ戻りながら左へ進みます。

𝑠 線図では、タービン膨張の出口がドーム内のどこに入るかを見ます。 出口が右境界に近ければ乾き度が高く、液滴が少ない状態です。 左へ深く入るほど湿りが強く、羽根の損失や摩耗が問題になります。

混合状態量

二相域の比体積、比エンタルピー、比エントロピーは、飽和液の値と飽和蒸気の値を乾き度で補間します。 たとえば比エンタルピーは

=𝑓+𝑥fg=𝑓+𝑥(𝑔𝑓)

です。 同様に

𝑣=𝑣𝑓+𝑥𝑣fg,𝑠=𝑠𝑓+𝑥𝑠fg

と書けます。

蒸気タービンでは、膨張後の乾き度が小さすぎると液滴が羽根に当たり、効率低下や損傷につながります。 そのため、𝑠 線図で等エントロピー膨張を追い、出口がどの程度湿るかを見ることが重要です。

蒸気表の読み方

蒸気表は、圧力または温度を入口にして、飽和液、飽和蒸気、過熱蒸気の状態量を調べる表です。 まず状態が飽和状態か、過熱蒸気か、圧縮液かを判断します。

飽和表では、圧力を決めれば飽和温度が決まり、𝑓𝑔𝑠𝑓𝑠𝑔 などを読みます。 二相域の状態量は乾き度で補間します。

𝑦=𝑦𝑓+𝑥(𝑦𝑔𝑦𝑓)

ここで 𝑦𝑣𝑠 のような比状態量です。 過熱蒸気表では、圧力と温度の二つから状態を決めます。 タービン入口のように過熱蒸気を扱うときは、入口圧力と入口温度から 𝑠 を読み、そこから膨張線を追います。

圧縮液は厳密には専用表が必要ですが、液体は圧力で体積があまり変わらないため、粗い計算では同じ温度の飽和液として近似することがあります。 ポンプ仕事を見積もるときは

𝑤𝑝𝑣𝑓(𝑝2𝑝1)

のように、液体の比体積が小さいことを利用します。

潜熱と顕熱

温度を上げるための熱を顕熱、相を変えるための熱を潜熱と呼びます。 沸騰中は熱を加えても温度がほぼ一定で、その熱は液体を蒸気にするために使われます。 蒸気機関やランキンサイクルで水が便利なのは、相変化によって大きな熱量を比較的狭い温度範囲で受け渡しできるためです。

ただし、温度差が小さいまま熱交換しようとすると熱交換器が大きくなります。 逆に温度差を大きくすると不可逆性が増え、利用できる仕事、つまりエクセルギーが失われます。 熱効率を見るときは「熱量が大きいか」だけでなく「どの温度で熱を受け渡したか」を見る必要があります。

Ts線図とhs線図

𝑇𝑠 線図では、可逆加熱の熱量が面積として読めます。 ランキンサイクルでは、ポンプで加圧した水をボイラで加熱し、飽和液から湿り蒸気、さらに過熱蒸気へ進めます。 タービン膨張は理想的には等エントロピーなので、𝑇𝑠 線図ではほぼ縦線になります。

𝑠 線図では、タービンの仕事をエンタルピー降下として直接読めます。 断熱タービンの理想仕事は

𝑤𝑡=34𝑠

で、実際の仕事は不可逆性により

𝑤𝑡=34

となります。 タービン等エントロピー効率は

𝜂𝑡=3434𝑠

で定義されます。

クラウジウス-クラペイロンの式

飽和圧力が温度とともにどう変わるかは、クラウジウス-クラペイロンの式で表されます。

𝑑𝑝sat𝑑𝑇=fg𝑇(𝑣𝑔𝑣𝑓)

蒸発潜熱 fg が大きく、蒸気の比体積 𝑣𝑔 が液体より大きいほど、飽和圧力は温度に敏感になります。 ボイラ圧力を上げると飽和温度も上がり、高温側で熱を入れられるため熱効率は上がりやすくなります。 一方で、機械的強度、材料温度、配管・弁の設計が厳しくなります。

水と冷媒の違い

蒸気動力では水を使うことが多く、冷凍機やヒートポンプでは目的温度に合わせた冷媒を使います。 重要なのは、使いたい温度範囲で適切な飽和圧力を持つことです。 低温側で蒸発でき、高温側で凝縮でき、しかも圧力が高すぎず低すぎない冷媒が扱いやすくなります。

同じ 𝑝 線図でも、水蒸気サイクルではタービン仕事、冷凍サイクルでは圧縮機仕事と蒸発・凝縮熱を読みます。 相変化の理論は同じですが、熱機関では仕事を取り出す向き、ヒートポンプでは仕事を入れて熱を移す向きに読む点が違います。