ピストン式エンジンでは、一定量の気体を閉じ込めて状態変化を追います。 一方、タービン、圧縮機、ノズル、熱交換器では、流体が入口から入り出口へ出ていきます。 このような開いた系を扱うには、内部エネルギー よりもエンタルピー
を使うと見通しがよくなります。 pv は、流体を装置へ押し込むための流動仕事を含めた項です。
閉じた系と開いた系
ピストン機関では、ある量の気体を追跡し、その気体が圧縮され、燃焼し、膨張する様子を見ます。 これは閉じた系の見方です。 一方、タービンや圧縮機では、装置の中を流体が通過し続けます。 この場合は、装置を囲む検査体積を取り、入口と出口で運ばれるエネルギーを比較します。
開いた系では、流体が運ぶエネルギーを次のように分けます。
- 内部エネルギー: 分子運動や温度に対応する
- 流動仕事: 流体を押し込むための
- 運動エネルギー: 流速による
- 位置エネルギー: 高さによる
- 軸仕事: シャフトを通じて出入りする仕事
内部エネルギーと流動仕事を合わせたものがエンタルピーです。 そのため、流体機械では より が自然に現れます。
定常流のエネルギー式
入口 1、出口 2 をもつ一入口一出口の装置を考えます。 軸仕事を外へ取り出す向きを正にすると、定常流のエネルギー式は
です。 タービンや圧縮機では位置エネルギーは小さいことが多く、流速変化も無視できる場合があります。 断熱タービンなら
断熱圧縮機なら
として仕事をエンタルピー差で読めます。
代表的な装置
同じ定常流の式でも、どの項を残すかは装置によって変わります。
ノズルでは軸仕事がなく、断熱に近いので、エンタルピーが運動エネルギーへ変わります。
タービンでは、流体のエンタルピーを軸仕事として取り出します。 圧縮機では逆に、軸仕事を入れて流体の圧力とエンタルピーを上げます。 熱交換器では軸仕事はなく、主に二つの流体のエンタルピー変化を対応させます。
この「どの項が支配的か」を先に決めると、線図で何を見るべきかが決まります。 ノズルでは速度、タービンではエンタルピー降下、圧縮機では必要仕事、熱交換器では温度差と圧力損失を見ます。
hs線図
連続流機械でよく使う線図は 線図です。 断熱かつ可逆な流れは等エントロピーなので、 線図では縦線になります。 現実のタービン膨張ではエントロピーが増え、同じ出口圧力まで膨張しても理想よりエンタルピー降下が小さくなります。
タービン等エントロピー効率は
です。 ここで は、入口状態から同じ出口圧力まで等エントロピー膨張した仮想状態です。
圧縮機では逆に、実際の圧縮に必要な仕事が理想より大きくなるため
で定義します。 同じ「等エントロピー効率」でも、タービンと圧縮機で分子と分母の並びが変わるのは、仕事を取り出す機械と仕事を投入する機械の違いです。
hs線図を読む手順
線図を読むときは、次の順に追うとよいです。
- 入口状態を圧力と温度、または圧力と乾き度から決める
- 理想過程を等エントロピー線として縦に引く
- 実際の出口圧力線との交点から、理想出口 または を読む
- 等エントロピー効率を使って実際出口の を求める
- 出口が湿り域に入るか、過熱域に残るかを確認する
タービンでは、理想出口より実際出口のエンタルピーが高くなります。 つまり取り出せた仕事が小さくなります。 圧縮機では、理想出口より実際出口のエンタルピーが高くなります。 こちらは必要仕事が大きくなるという意味です。
同じ「出口エンタルピーが高い」でも、タービンでは損をしている、圧縮機でも損をしている、という読み方になります。 線図では、仕事の向きまで合わせて読む必要があります。
全温と全圧
高速の流れでは、静温 と速度エネルギーを合わせた全温 を使います。 理想気体なら
です。 断熱ノズルでは全エンタルピーがほぼ保存され、エンタルピーが流速へ変換されます。 ガスタービンやジェットエンジンでは、圧縮機、燃焼器、タービン、ノズルを全温・全圧でつなぐと計算しやすくなります。
ただし、実機の流路では摩擦や混合によって全圧が下がります。 全圧損失は、同じ温度の熱を入れても取り出せる仕事や推力を減らすため、効率に直接効いてきます。
圧力損失とエントロピー生成
流路の摩擦、曲がり、急拡大、羽根列の損失、燃焼器の混合は、全圧を下げます。 断熱のまま全圧が下がる過程は、利用できる仕事が減る不可逆過程です。 線図や 線図では、状態点が右へ動くことで表されます。
ガスタービンでは、圧縮機で作った全圧を燃焼器や配管で失うと、タービンで使える圧力比が減ります。 蒸気タービンでは、配管や弁の絞りでエンタルピーは大きく変わらなくても、エントロピーが増え、タービンで取り出せる仕事が減ります。 ヒートポンプでは、熱交換器や配管の圧力損失が圧縮機仕事を増やし、COP を下げます。
熱効率との接続
開いた系のサイクル効率も、基本は
です。 ガスタービンでは
となり、圧縮機仕事が大きいほど出力が減ります。 蒸気タービンを使うランキンサイクルでは、ポンプ仕事はタービン仕事に比べて小さいため、同じ熱入力でも比較的大きな正味仕事を取り出しやすい構成になります。