ディーゼルエンジンは、空気だけを高圧縮し、燃料噴射によって自己着火させる内燃機関です。
この章では、ディーゼルサイクル、圧縮比、カットオフ比、ガソリンエンジンとの違いを整理します。
見るところ
- 圧縮着火
- 定圧加熱を含む理想ディーゼルサイクル
- 高い圧縮比と熱効率
- 燃料噴射、過給、排気処理
理想ディーゼルサイクル
ディーゼルサイクルでは、空気だけを圧縮して高温にし、そこへ燃料を噴射します。 燃焼はピストンが下がり始めても続くため、理想サイクルでは熱入力を等圧加熱として近似します。
- : 断熱圧縮
- : 等圧加熱
- : 断熱膨張
- : 等積放熱
線図では、 が水平に近い等圧線として描かれます。 燃焼中に体積が増えるため、オットーサイクルのような縦の等積加熱ではなく、燃料噴射期間に対応する横方向の広がりを持ちます。
PV線図で追う燃焼
ディーゼルエンジンの 線図では、圧縮終点の後に燃焼による圧力上昇が現れます。 火花点火機関と違い、燃料は圧縮後の高温空気へ噴射されるため、熱の入れ方は噴射時期と噴射率で決まります。
線図を見るときは、次の点を分けます。
- 圧縮終点の圧力と温度が十分高いか
- 燃焼初期の圧力上昇率が大きすぎないか
- 燃焼が膨張行程のどこまで続いているか
- 排気弁開き時にまだ高い圧力を残していないか
燃焼が早すぎると圧力上昇率が大きくなり、騒音や機械負荷が増えます。 燃焼が遅すぎると、膨張が進んだ後に熱を入れることになり、線図の面積が増えにくくなります。 したがって、効率と騒音の両方を見るには、最高圧力だけでなく圧力上昇率と燃焼終了位置を見る必要があります。
熱効率
圧縮比を
カットオフ比を
とします。 理想ディーゼルサイクルの熱効率は
です。
この式は、圧縮比 を大きくすると効率が上がり、カットオフ比 が大きくなると効率が下がることを示します。 同じ圧縮比なら、等積加熱のオットーサイクルの方が理想効率は高くなります。 しかし実際のディーゼルエンジンは、火花点火機関より高い圧縮比を使え、吸気をスロットルで大きく絞らずに負荷調整できるため、実用上は高効率になりやすいです。
実際のPV線図
実機の 線図では、燃料噴射、蒸発、混合、着火、拡散燃焼が重なります。 理想サイクルのように明確な等圧加熱線にはならず、燃焼初期には急な圧力上昇、続いて噴射に支配された燃焼が現れます。
着火遅れが長いと、噴射された燃料が一気に燃えて圧力上昇率が大きくなります。 これがディーゼルノックの原因になります。 一方、燃焼をゆっくりにしすぎると、膨張が進んだ低温側で熱を入れることになり、熱効率が下がります。
熱発生率と着火遅れ
ディーゼル燃焼は、予混合燃焼と拡散燃焼に分けて見ると整理しやすくなります。 噴射された燃料は、蒸発し、空気と混ざり、着火条件に達して燃えます。 噴射開始から実際に燃え始めるまでの時間が着火遅れです。
着火遅れが長いと、燃え始める前に燃料が多くたまり、着火後に急激に燃えます。 線図では急な圧力上昇として現れます。 着火遅れが短すぎる場合も、空気との混合が不十分なまま燃え、すすや未燃成分が増えやすくなります。
熱発生率を考えると、理想ディーゼルサイクルの「等圧加熱」はかなり粗い近似です。 実際には、初期の急速燃焼、噴射に支配される燃焼、後燃えが続きます。 燃焼後半の熱は仕事へ変わりにくいため、後燃えを減らすことが効率に効きます。
効率と排気
ディーゼルエンジンは希薄燃焼で運転できるため、部分負荷でもポンピング損失が小さくなります。 過給を組み合わせると多くの空気を入れられ、燃焼温度や排気温度を制御しながら出力を上げられます。
一方で、高温・高圧・希薄燃焼は窒素酸化物を増やしやすく、燃料と空気の混合が不十分だと粒子状物質が増えます。 熱効率だけでなく、燃焼室内の混合、噴射時期、噴射圧、EGR、後処理まで含めて設計する必要があります。
効率改善の方向
ディーゼルエンジンでは、圧縮比、過給、噴射、EGR が効率と排気を同時に左右します。 高い圧縮比は冷始動や着火には有利ですが、最高圧力と機械損失を増やすため、過給と噴射制御が進むと圧縮比を下げる設計もあります。
効率改善を線図で見ると、次のようになります。
- 過給で吸入空気量を増やし、同じ排気量で大きな面積を得る
- 噴射時期を調整し、圧力上昇を上死点後の有利な位置に置く
- 多段噴射で圧力上昇率を抑え、騒音と燃焼損失を減らす
- EGR で燃焼温度を下げ、NOx を抑える。ただし燃焼速度やすすとのバランスが必要
- ターボ過給機で排気エネルギーを回収し、吸気圧を上げる
ガソリンエンジンと比べると、ディーゼルはスロットル損失が小さい一方、排気後処理と燃焼制御の制約が強くなります。