ヒートポンプは、仕事を投入して低温側から高温側へ熱を移す装置です。 熱を仕事へ変える熱機関とは逆向きのサイクルで、暖房、冷房、冷蔵、給湯に使われます。
熱機関では熱効率 を使いますが、ヒートポンプでは投入仕事より大きな熱量を運べるため、成績係数 COP で評価します。
蒸気圧縮冷凍サイクル
代表的なヒートポンプは蒸気圧縮冷凍サイクルです。 冷媒を圧縮、凝縮、膨張、蒸発させながら熱を運びます。
- : 圧縮機で冷媒蒸気を圧縮する
- : 凝縮器で高温側へ熱を捨て、液化する
- : 膨張弁で減圧する
- : 蒸発器で低温側から熱を吸い、蒸発する
線図では、横軸に比エンタルピー 、縦軸に圧力 をとります。 圧縮機仕事、凝縮器で放出する熱、蒸発器で吸収する熱が、エンタルピー差として直接読めます。
冷凍サイクルの向き
ヒートポンプや冷凍機は、熱機関の逆向きに動くサイクルです。 熱機関では高温側から熱を受け取り、仕事を出し、低温側へ熱を捨てます。 冷凍サイクルでは仕事を入れ、低温側から熱を吸い上げ、高温側へ熱を捨てます。
線図や 線図では、サイクルの向きが熱機関と逆になります。 この向きを間違えると、COP と熱効率の意味を取り違えます。 ヒートポンプは熱を作る装置ではなく、仕事を使って熱の流れを逆向きにする装置です。
ph線図
蒸気圧縮サイクルでは 線図が特に便利です。 おおまかには、圧縮は右上へ、凝縮は高圧側で左へ、膨張弁はほぼ鉛直下向き、蒸発は低圧側で右へ進みます。
理想化すると、膨張弁は断熱で軸仕事もない絞り過程なので
です。 この過程では仕事を取り出せず、圧力を落とすだけなので、エントロピーは増えます。 膨張機で仕事を回収できれば理論上は効率を上げられますが、小型機では複雑さやコストの方が大きくなりがちです。
ph線図の読み方
線図では、圧縮機仕事と熱交換量が横方向の距離として読めます。 縦軸は圧力なので、高圧側が凝縮器、低圧側が蒸発器に対応します。
読む手順は次の通りです。
- 蒸発器出口の状態 を見る。通常は少し過熱した蒸気にする
- 圧縮機で へ進む。実際の圧縮ではエントロピーが増え、出口エンタルピーが上がる
- 凝縮器で へ進む。高圧側で熱を捨て、液体へ戻る
- 膨張弁で へ進む。エンタルピーはほぼ一定で、圧力だけが下がる
- 蒸発器で へ進む。低温側から熱を吸って蒸発する
蒸発器出口に液が残ると圧縮機を傷めるため、通常は少し過熱を持たせます。 凝縮器出口を少し過冷却すると、膨張弁後の気液混合のうち液体割合が増え、蒸発器で吸える熱が増えます。
COP
暖房として使う場合、目的は高温側へ渡す熱 です。 暖房 COP は
です。 冷房・冷凍として使う場合、目的は低温側から吸い取る熱 なので
です。 同じ装置でも、暖房 COP は冷房 COP より 1 だけ大きい関係になります。
理想的なカルノーサイクルなら
です。 高温側と低温側の温度差が小さいほど COP は高くなります。 逆に、寒い外気から高温の室内や給湯タンクへ熱を上げるほど、圧縮機に必要な仕事は増えます。
Ts線図と不可逆性
線図では、蒸発器と凝縮器での熱交換を温度差として見ます。 冷媒と空気・水の温度差が大きいほど熱交換器は小さくできますが、不可逆性が増えて COP は下がります。 熱交換器を大きくし、流路損失を小さくし、圧縮機効率を上げることが、実機の性能改善につながります。
主な損失は次の通りです。
- 圧縮機の等エントロピー効率が 1 より小さい
- 凝縮器・蒸発器で有限の温度差が必要
- 冷媒配管と熱交換器で圧力損失がある
- 膨張弁の絞りで仕事を回収できない
- 除霜、ファン、ポンプ、制御機器の補機動力がある
ヒートポンプの「効率」を読むときは、熱効率ではなく COP を使う点が重要です。 熱を作っているのではなく、低温側にある熱を仕事で高温側へ移しているため、COP は 1 を超えることができます。
COPを上げる方向
COP を上げる基本は、圧縮機が作る温度差を小さくすることです。 暖房なら、外気温度に近い蒸発温度で熱を吸い、室内や水に必要な最低限の凝縮温度で熱を捨てるのが有利です。 冷房なら、室内空気に近い蒸発温度で熱を吸い、外気に近い凝縮温度で捨てます。
線図上では、蒸発圧力を上げ、凝縮圧力を下げるほど、圧縮機のエンタルピー上昇が小さくなります。 ただし熱交換には有限の温度差が必要なので、熱交換器の面積、風量、霜付き、騒音、コストとの兼ね合いになります。
実機で見るべき点は次の通りです。
- 圧縮機の等エントロピー効率
- 蒸発器と凝縮器の温度差
- 過熱度と過冷却度
- 冷媒配管と熱交換器の圧力損失
- 除霜運転やファン・ポンプの補機動力
カタログ上の COP だけでなく、外気温、負荷率、霜付き、給湯温度など、実際に使う条件でのサイクル点を見ることが重要です。