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ガソリンエンジン

火花点火機関の理想サイクルと実機の特徴を整理します

ガソリンエンジンは、空気と燃料の混合気を圧縮し、点火プラグで火花点火して仕事を取り出す内燃機関です。

この章では、オットーサイクル、圧縮比、スロットル損失、燃焼速度を見ます。

見るところ

  • 火花点火
  • 定積加熱を含む理想オットーサイクル
  • 圧縮比とノッキング
  • 吸排気、過給、希薄燃焼

理想オットーサイクル

ガソリンエンジンの基本モデルはオットーサイクルです。 空気標準サイクルとして考えると、作動流体を理想気体の空気とみなし、燃焼を外部からの熱入力で置き換えます。

  1. 12: 断熱圧縮
  2. 23: 等積加熱
  3. 34: 断熱膨張
  4. 41: 等積放熱

𝑝𝑉 線図では、断熱圧縮と断熱膨張が曲線、等積加熱と等積放熱が縦線になります。 囲まれた面積が 1 サイクルあたりの正味仕事です。 等積加熱を仮定するのは、ピストンが上死点付近にある短い時間で燃焼が進む、と近似するためです。

PV線図で追う4行程

実際の 4 ストロークガソリンエンジンでは、理想サイクルの 4 過程に吸気・排気のガス交換が加わります。 𝑝𝑉 線図を読むときは、まず大きな仕事ループと小さなポンピングループを分けます。

  1. 吸気行程: ピストンが下がり、混合気を吸い込む。スロットルにより圧力は大気圧より低くなりやすい
  2. 圧縮行程: ピストンが上がり、圧力と温度が上がる。点火直前の状態が燃焼の出発点になる
  3. 燃焼・膨張行程: 上死点付近で圧力が急上昇し、膨張で仕事を取り出す
  4. 排気行程: 排気弁が開き、燃焼ガスを押し出す

線図の上側にある膨張曲線と下側にある圧縮曲線の差が主な正味仕事です。 吸気線と排気線で囲まれる小さなループは、ガス交換に使った仕事を表します。 このループが大きいほど、燃料で得た仕事の一部を吸排気に使ってしまいます。

熱効率

圧縮比を

𝑟=𝑉1𝑉2

比熱比を 𝜅 とすると、理想オットーサイクルの熱効率は

𝜂Otto=11𝑟𝜅1

です。 この式は、圧縮比を上げるほど効率が上がることを示します。 圧縮で温度を高くしてから燃焼させると、同じ放熱温度に対して高温側で熱を受け取れるため、熱機関として有利になります。

ただし実機では圧縮比を無制限に上げられません。 混合気が火花点火の前に自己着火するとノッキングが起こり、出力低下や損傷の原因になります。 燃料のオクタン価、燃焼室形状、冷却、点火時期、過給圧が、許される圧縮比を決めます。

実際のPV線図

実機の 𝑝𝑉 線図は理想オットーサイクルより丸く、吸排気行程を含む小さなループも現れます。 代表的には次のずれがあります。

  • 吸気行程ではスロットルや吸気抵抗により、シリンダ圧力が大気圧より低くなる
  • 圧縮・膨張は完全な断熱ではなく、壁面へ熱が逃げる
  • 燃焼には有限の時間がかかるため、圧力上昇は完全な等積にならない
  • 排気弁を早めに開くため、膨張仕事の一部を捨てる
  • ピストンリング、軸受、補機で機械損失が出る

吸気行程と排気行程で囲まれる負の面積はポンピング損失です。 とくに部分負荷ではスロットルを絞るため、吸気圧力が下がり、ポンピング損失が増えます。 ガソリンエンジンが低負荷で効率を落としやすい大きな理由です。

燃焼位相と線図の丸まり

理想オットーサイクルでは、燃焼は瞬間的な等積加熱として描かれます。 しかし実際の火炎伝播には時間がかかるため、点火は上死点より前に行います。 燃焼による圧力上昇の山が上死点後の適切な位置に来ると、膨張仕事を大きくできます。

点火が遅すぎると、ピストンが下がって体積が増えた後に熱が入るため、線図の高圧部分が低くなり、仕事が減ります。 点火が早すぎると、圧縮中に圧力が上がりすぎ、負の仕事やノッキングが増えます。 したがって、𝑝𝑉 線図では最高圧力だけでなく、圧力上昇がどの体積位置で起きているかを見る必要があります。

実機の線図が理想線のように角ばらないのは、燃焼時間、熱損失、弁開閉時期、流路抵抗があるためです。 丸まりは単なる作図の誤差ではなく、有限時間で動く機械の損失を表しています。

効率を分けて考える

エンジンの効率は、どこまでの仕事を見るかで名前が変わります。

  • 図示熱効率: シリンダ内の 𝑝𝑉 線図から得られる仕事を熱入力で割った効率
  • 機械効率: 図示仕事のうち、クランク軸出力まで残る割合
  • 正味熱効率: クランク軸出力を燃料の発熱量で割った効率

理想オットーサイクルの効率は上限の見通しを与えますが、実機の正味熱効率は燃焼損失、冷却損失、排気損失、摩擦損失、ポンピング損失を引いた後の値です。 過給、可変バルブタイミング、直噴、希薄燃焼、ミラーサイクル化は、これらの損失を減らすための工夫として見られます。

効率改善の方向

ガソリンエンジンの効率改善は、理想サイクルの式だけを見ると圧縮比を上げることに見えます。 実際にはノッキング、排気温度、触媒温度、燃焼安定性、騒音が制約になります。

よく使われる方向は次の通りです。

  • 圧縮比を上げる。ただしノッキングを抑える必要がある
  • 膨張比を圧縮比より大きくする。ミラーサイクルやアトキンソンサイクルで排気損失を減らす
  • スロットル損失を減らす。可変バルブや希薄燃焼で吸気絞りを弱める
  • 燃焼を速く安定にする。直噴、タンブル流、点火制御で燃焼位相を最適化する
  • 摩擦と補機損失を減らす。低粘度油、可変ポンプ、電動補機を使う

線図で見ると、これらは高圧側の面積を増やす、低圧側の負の面積を減らす、膨張終点の圧力を下げて排気に捨てる仕事を減らす、という形で現れます。