トランジスタの中でも、電子工作で一番よく使うのは MOS-FET だと思います。 モーター、LED テープ、ヒーター、ソレノイド、リレー、だいたいの「ちょっと大きい電流をマイコンで ON/OFF したい」は MOS-FET で片付きます。
BJT (Bipolar Junction Transistor) はベース電流でコレクタ電流を制御する素子でした。 一方、MOS-FET はゲート電圧でドレイン-ソース間の抵抗を制御する素子です。 入力が電流ではなく電圧なので、マイコンの GPIO から扱いやすいです。
ただし「ゲートに電圧を入れれば動く」と思って使うと、発熱したり、電源投入時に勝手に ON したり、誘導性負荷で壊れたりします。 FET、便利だけど罠が多い。
MOS-FET の端子
MOS-FET には基本的に 3 本の端子があります。
| 端子 | 名前 | 役割 |
|---|---|---|
G | Gate | ON/OFF を制御する入力 |
D | Drain | 電流が入る側 |
S | Source | 電流が出る側 |
Body | Body/Bulk | 内部基板。多くの部品では S と接続済み |
N チャネル MOS-FET では、ゲート-ソース間電圧 が十分大きいと ON になります。 P チャネル MOS-FET では逆に、 が十分負になると ON になります。
電子工作でまず覚えるべきは N チャネル MOS-FET のローサイドスイッチです。
VCC ---- 負荷 ---- D N-MOS S ---- GND
|
GPIO -- Rg -------- G
|
Rpd
|
GND
GPIO を High にすると、 が上がり、FET が ON になります。 GPIO を Low にすると、 が 0 V になり、FET が OFF になります。
これが一番簡単で、一番事故りにくいです。 最初はこれだけでいいです。
BJT との違い
BJT は電流増幅素子です。 ベース電流 を流し、その 倍ぐらいのコレクタ電流 を流します。
MOS-FET は、ざっくり言うと可変抵抗です。 ゲート電圧でドレイン-ソース間抵抗 を小さくします。
| BJT | MOS-FET | |
|---|---|---|
| 制御量 | ベース電流 | ゲート-ソース間電圧 |
| 入力 | 電流を流す | ほぼ電流を流さない |
| ON 時の損失 | ||
| 得意な用途 | 小信号増幅、簡単なスイッチ | 大電流スイッチ、電源制御 |
「ほぼ電流を流さない」ので、定常状態では GPIO の負荷が小さいです。 ただしゲートは小さなコンデンサなので、ON/OFF の瞬間には充放電電流が流れます。
高速にスイッチングしたい場合は、ゲート容量をどれだけ速く充放電できるかが効いてきます。 PWM でモーターを回すときに FET が熱くなる原因の一つです。
ロジックレベル FET
データシートで最初に見るべきは です。 「ON 抵抗」と呼ばれる値です。
ここで注意するのは、 の条件です。
| 表記例 | 意味 |
|---|---|
| at 10 V | ゲートに 10 V 入れたときの ON 抵抗 |
| at 4.5 V | 5 V マイコンで使える可能性が高い |
| at 2.5 V | 3.3 V マイコンで使える可能性がある |
| ほんの少し電流が流れ始めるしきい値 |
は「ON になる電圧」ではありません。 たとえば と書いてあっても、3.3 V で大電流を流せるとは限りません。 これはかなり罠です。
マイコンから直接駆動するなら、 や での が明記されたロジックレベル FET を選びます。 秋月の部品ページだけ見て「なんか強そう!」で買うと、意外と 10 V 駆動前提だったりします。
発熱の見積もり
FET の発熱はまず導通損失を見ます。
たとえば の FET に 2 A 流すと、
この程度なら小さなパッケージでもなんとかなりそうです。 一方、 だと、
急に熱くなります。 同じ 2 A でも、ON 抵抗で発熱が 10 倍変わります。
実際にはスイッチング損失、周囲温度、基板の銅箔面積、パッケージの熱抵抗も効きます。 ただ、最初の見積もりとしては を見ればだいたい危ない匂いは分かります。
ゲート抵抗
GPIO とゲートの間には、数十 Ω から数百 Ω 程度の抵抗を入れることが多いです。
GPIO ---- Rg ---- Gate
これはゲート容量への突入電流を抑えるためです。 また、配線のインダクタンスとゲート容量で変なリンギングが出るのを少し抑えます。
低速な ON/OFF なら 100 Ω ぐらいを雑に入れておけば十分です。 PWM の周波数が高い、FET が大きい、ゲート配線が長い、という場合はちゃんと波形を見たほうがいいです。
ゲート抵抗を大きくしすぎると、ON/OFF の遷移が遅くなります。 遷移中は FET が中途半端に ON しているので、電圧も電流もかかり、発熱します。 やさしさで入れた抵抗が熱を生む。電子工作、そういうところある。
プルダウン抵抗
ゲートにはプルダウン抵抗を入れます。
Gate ---- Rpd ---- GND
MOS-FET のゲートはほぼ絶縁されているので、何も接続しないと電荷が残ります。 マイコンのリセット中、GPIO が入力状態になっている間、ゲートがふわふわして勝手に ON することがあります。
LED なら一瞬光るだけで済みます。 モーターやヒーターだと普通に困ります。
プルダウン抵抗は 10 kΩ から 100 kΩ ぐらいでよく見ます。 高速スイッチングではゲート電荷を引き抜く経路にもなるので、値を小さめにすることもあります。
誘導性負荷とフライバックダイオード
モーター、リレー、ソレノイドのようなコイルは、電流を急に止めると高い電圧を発生させます。 FET を OFF にした瞬間、コイルは「今まで流れていた電流を流し続けたい」と暴れます。
その逃げ道として、負荷に並列にダイオードを入れます。
VCC ----+---- コイル ----+---- D N-MOS S ---- GND
| |
+------|<|------+
このダイオードをフライバックダイオードと呼びます。 リレーや小型 DC モーターを FET で駆動するときは、まず入れます。
ただし、高速に電流を切りたい場合は、普通のダイオードだけだと電流の減衰が遅くなります。 その場合はツェナーダイオードや TVS (Transient Voltage Suppressor) を使うこともあります。 このへんはパワエレの沼です。
ハイサイドスイッチ
負荷の上側、つまり電源側をスイッチしたいこともあります。
VCC ---- S P-MOS D ---- 負荷 ---- GND
|
GPIO ---- G
P チャネル MOS-FET のハイサイドスイッチでは、ゲートをソースと同じ電圧にすると OFF、ゲートを下げると ON です。 5 V 負荷を 5 V マイコンで制御するぐらいなら簡単です。
しかし 12 V 負荷を 3.3 V マイコンで直接制御する場合、GPIO を High にしてもゲートは 3.3 V にしかなりません。 ソースが 12 V なので、 になり、普通に ON しっぱなしです。
こういう場合は、NPN トランジスタや N-MOS で P-MOS のゲートを引っ張る、あるいは専用のハイサイドスイッチ IC を使います。 無理にディスクリートで組むより、保護回路入り IC を買った方が早いことも多いです。
ボディダイオード
MOS-FET には内部構造の都合でボディダイオードがあります。 N チャネル MOS-FET では、ソースからドレインへ向かう向きにダイオードが入っているように見えます。
このダイオードのせいで、FET を OFF にしても逆向きには電流が流れることがあります。 電源の逆流防止、バッテリ切替、双方向スイッチを作るときに効いてきます。
完全に双方向を切りたい場合は、FET を背中合わせに 2 個使います。
IN ---- D N-MOS S ---- S N-MOS D ---- OUT
| |
+------G-------+
リチウムイオン電池の保護回路でよく見る構成です。
よくある失敗
3.3 V で十分 ON していない
だけ見て FET を選ぶと起きます。 LED は光るのに、モーターをつなぐと FET が熱い、みたいな症状になります。
データシートで の測定条件を見ます。 3.3 V GPIO なら、 か 付近の値が欲しいです。
ソースを GND に落としていない
N-MOS のローサイドスイッチは、ソースが GND だから簡単です。 ソースが動く回路では、GPIO 電圧ではなく を見ないといけません。
「ゲートに 5 V 入れたから ON」ではなく、「ゲートがソースより何 V 高いか」が本質です。
ゲートが浮いている
プルダウンなしで組むと、電源投入時に勝手に ON します。 電源投入時の一瞬の挙動は、机の上では見落としやすいです。 展示や実機ではだいたいそこで刺さります。
まとめ
電子工作で MOS-FET を使うときの最小構成は、N チャネル MOS-FET のローサイドスイッチです。
- ロジックレベル FET を使う
- と の条件を見る
- ゲート抵抗を入れる
- ゲートにプルダウンを入れる
- コイル負荷にはフライバックダイオードを入れる
- 発熱はまず で見積もる
このあたりを守るだけで、マイコンから大きな負荷をかなり安全に扱えます。 次は CMOS の基本回路を見ていきます。