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多重振動系

バネ・マス系を例に、多自由度の振動を固有モードへ分解する

バネと質点をたくさん並べると、見た目は急に複雑になります。

しかし線形な範囲では、やっていることは行列の固有値問題です。多重振動系は「微分方程式を固有ベクトルで分解すると、独立した単振動の和になる」という例として、とてもよいです。

この記事では、両端を固定したバネ・マス系を考えます。解析力学そのものの話は次回に回して、ここでは運動方程式から正規モードまでを計算します。

離散系

𝑛+1 個のバネと 𝑛 個のマスからなる系の運動を考える。

m
m
m
m
m
m
k
k
k
k
k
k
k
k
u i-1
ui-1
u i
ui
u i+1
ui+1
a
a
i-2
i-2
i-1
i-1
i
i
i+1
i+1
u 0
u0
u n+1
un+1
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両端の壁の変位を 𝑢0=𝑢𝑛+1=0 とする。平衡状態において、各質点の変位 𝑢𝑖0 となるように基準をとる。

ポテンシャル

𝑢𝑖𝑢𝑖+1 に挟まれたバネのポテンシャルエネルギーは、

𝜑𝑖=12𝑘(𝑢𝑖𝑢𝑖+1)2+𝜑(𝑎)

です。𝜑(𝑎) は基準位置での定数なので、運動方程式には効きません。

系全体のポテンシャルエネルギーは、

Φ(𝑢1,𝑢2,,,𝑢𝑛)=𝑛𝑖=012𝑘(𝑢𝑖𝑢𝑖+1)2

と書けます。

運動方程式

保存力はポテンシャルの勾配にマイナスを付けたものです。

𝑢𝑖 の運動方程式は、

𝑚̈𝑢𝑖=𝜕Φ𝜕𝑢𝑖

です。実際に微分すると、

𝜕Φ𝜕𝑢𝑖=𝜕𝜕𝑢𝑖𝑙{12𝑘(𝑢𝑖1𝑢𝑖)2+12𝑘(𝑢𝑖𝑢𝑖+1)2𝑟}=𝑘(2𝑢𝑖𝑢𝑖1𝑢𝑖+1)

なので、

𝑚̈𝑢𝑖=𝑘(𝑢𝑖12𝑢𝑖+𝑢𝑖+1)

になります。単振動の式 m dot.double(u)=-ku と同じく、変位と逆向きに戻す力が働く形です。

行列で書く

変位ベクトルを

𝒖=[𝑢1𝑢2:𝑢𝑛1𝑢𝑛]

とおく。さらに、

𝑫=[2112112112112]

とおくと、運動方程式は

𝑚̈𝒖+𝑘𝑫𝒖=𝟎

と書けます。

ここで大事なのは、𝑫 が隣同士の差分だけを表す行列になっていることです。連続系でいうところの 2 階微分に対応します。差分行列、急に物理っぽくなって楽しい。

固有振動

解を

𝒖(𝑡)=𝒗𝑞(𝑡)

の形に分離します。これは「全部の質点が同じ時間波形 𝑞(𝑡) で動く。ただし振幅比は 𝒗 で決まる」と仮定することです。

運動方程式に代入すると、

𝑚𝒗̈𝑞+𝑘𝑫𝒗𝑞=𝟎

となる。𝒗𝑫 の固有ベクトルで、

𝑫𝒗=𝜆𝒗

を満たすなら、

𝑚̈𝑞+𝑘𝜆𝑞=0

になります。つまり、多質点系の運動が 1 個の単振動に落ちます。

固有角振動数は

𝜔=𝑘𝜆𝑚

です。

両端固定の場合

両端固定の差分行列の固有ベクトルは、サイン波になります。

𝑣𝑟𝑖=sin(𝑖𝑟𝜋𝑛+1)
𝜆𝑟=22cos(𝑟𝜋𝑛+1)=4sin2(𝑟𝜋2(𝑛+1))

ここで 𝑟=1,2,,,𝑛 です。したがって固有角振動数は、

𝜔𝑟=2𝑘𝑚sin(𝑟𝜋2(𝑛+1))

です。

𝑟=1 は全体がゆっくりうねるモードです。𝑟 が大きいほど隣の質点同士が逆向きに動くようになり、固有振動数も高くなります。

正規モード展開

一般の運動は、固有モードの足し合わせで表せます。

𝒖(𝑡)=𝑛𝑟=1𝒗𝑟𝑞𝑟(𝑡)

𝑞𝑟(𝑡) は独立な単振動です。

̈𝑞𝑟+𝜔2𝑟𝑞𝑟=0

したがって、

𝑞𝑟(𝑡)=𝑎𝑟cos(𝜔𝑟𝑡)+𝑏𝑟sin(𝜔𝑟𝑡)

です。初期変位と初期速度を固有ベクトルに射影すれば、係数 𝑎𝑟,𝑏𝑟 が決まります。

最初に見た 𝑛 個の連立微分方程式は、固有ベクトル基底に移ると 𝑛 個の独立した単振動になります。線形代数はえらい。

外力がある場合

𝑖 番目のマスに外力 𝑓𝑖(𝑡) をかけた場合、運動方程式は、

𝑚̈𝑢𝑖+𝑘(2𝑢𝑖𝑢𝑖1𝑢𝑖+1)=𝑓𝑖(𝑡)

です。行列で書けば、

𝑚̈𝒖+𝑘𝑫𝒖=𝒇(𝑡)

です。

これも正規モードへ分解できます。外力ベクトルを固有ベクトルに射影して、

𝐹𝑟(𝑡)=𝒗𝑟,𝒇(𝑡)

とおくと、各モードは

̈𝑞𝑟+𝜔2𝑟𝑞𝑟=𝐹𝑟(𝑡)𝑚

で駆動されます。

ある場所を周期的に揺らすと、外力の周波数に近い固有モードが強く出ます。共振です。橋でも分子でも機械でも、だいたいこの話が出てきます。

定数がバラバラの場合

質量 𝑚𝑖 バネ定数 𝑘𝑖 がバラバラの場合、ポテンシャルエネルギーは、

Φ(𝑢1,𝑢2,,,𝑢𝑛)=𝑛𝑖=012𝑘2𝑖(𝑢𝑖𝑢𝑖+1)

と書き換えられる。運動方程式は

𝑴̈𝒖+𝑲𝒖=𝟎

です。ただし、

𝑴=[𝑚1𝑚2𝑚3𝑚4𝑚5]
𝑲=[𝑘0+𝑘1𝑘1𝑘1𝑘1+𝑘2𝑘2𝑘2𝑘2+𝑘3𝑘3𝑘3𝑘3+𝑘4𝑘4𝑘4𝑘4+𝑘5]

です。

このとき固有振動は、通常の固有値問題ではなく一般化固有値問題になります。

𝑲𝒗=𝜔2𝑴𝒗

質量行列 𝑴 が単位行列でないので、内積も少し変わります。モード同士はふつうの内積ではなく、

𝒗𝑟,𝑴𝒗𝑠=𝛿rs

の意味で直交します。

ここをちゃんとやると、構造解析や分子振動の計算にそのまま繋がります。

連続系

質点の間隔を 𝑎 として、x=ia とおく。𝑢𝑖(𝑡) を連続関数 𝑢(𝑥,𝑡) の値だと思うと、

𝑢𝑖12𝑢𝑖+𝑢𝑖+1𝑎2𝜕2𝑢𝜕𝑥2

です。

したがって、

𝑚𝜕2𝑢𝜕𝑡2=𝑘𝑎2𝜕2𝑢𝜕𝑥2

となります。質量密度や弾性率で係数をまとめると、

𝜕2𝑢𝜕𝑡2=𝑐2𝜕2𝑢𝜕𝑥2

です。これは波動方程式です。

離散系では行列 𝑫 の固有ベクトルを探しました。連続系では微分演算子 𝜕2𝜕𝑥2 の固有関数を探します。行列と微分演算子が対応している、という見方です。

二原子分子の場合

同じ質量が並ぶ場合は、固有モードがきれいなサイン波になりました。では、質量が交互に 𝑚1,𝑚2 と並ぶとどうなるか。

これは二原子分子鎖のモデルです。格子振動、つまりフォノンの一番素朴な入口です。

この場合、1 つの波数に対して 2 つの固有振動数が出ます。

  • 音響分枝: 隣り合う原子がほぼ同じ向きに動く
  • 光学分枝: 隣り合う原子がほぼ逆向きに動く

固体物理で突然出てくる「分散関係」は、この多重振動系を無限個に増やしたものです。急に物性の顔をしてきますが、中身はまだバネと質点です。

まとめ

多重振動系の本質は、次の対応にあります。

離散系連続系
ベクトル関数
行列微分演算子
固有ベクトル固有関数
固有値問題境界値問題
正規モードフーリエ級数

多自由度の連立微分方程式は、そのままだと扱いにくいです。しかし固有モードで展開すると、互いに独立な単振動の集まりになります。

次は、この運動方程式をラグランジアンとハミルトニアンから見直します。式は同じでも、見えている構造が変わります。