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コンピュータ民俗学

最先端のフィールドワーク

民俗学、と聞いてなにを思い浮かべるだろうか。 妖怪といった不思議な話を集めている学問という印象かもしれない。 ひょっとしたら、どこか古臭いものと思われるかもしれない。

しかし、そんなことはない。妖怪は妖怪が生まれた当時はあたらしいものだった。 名付けようのない自然の脅威や、人智を超えた不条理な現象に輪郭を与え、人間が理解可能な形に落とし込むためのインターフェースだったはずだ。それが時代を経て、誰も妖怪の存在を信じなくなって初めて、昔話や民俗学の対象として固定化されてしまったにすぎない。

現代も、いや現代だからこそ、新たな怪異と民俗が生まれているように思われる。 実際に最新のAI技術を研究開発する現場においても、新たな民俗学的な事象は観測できる。 むしろAIや大規模分散システムは、現代においてもっとも活発な怪異の生成元となっている。

この記事では、私が実際にITの最先端のフィールドにおいて目撃・収集した事例を紹介していく。

データセンタと縁起物

台湾で毎年開催される世界最大級のコンピュータ見本市「COMPUTEX」に足を運ぶと、ハイテク企業のブースやサーバラックの周りで、奇妙な光景を目にする。緑色の袋に入ったスナック菓子「乖乖(グワイグワイ)」が、当たり前のようにマシンや基板の上に鎮座しているのだ。

「乖乖」は中国語で「お利口」「言うことを聞く」を意味する。緑色のパッケージはシステムの正常稼働を示すグリーンライトの象徴であり、これをマシンに供えることでトラブルなく動いてくれるといわれている。

ここには明確な禁忌も存在する。黄色や赤色のパッケージは警告やエラーの色を連想するから供えてはならない。期限切れのお菓子を放置してはならない。そして、供えてあるお菓子を勝手に食べてはならない。食べるとシステムが障害を起こす。この儀礼は厳格に守られている。実際COMPUTEXの会場の周りの商店では、緑色の乖乖だけが明らかに棚から減っていたのだ。

データセンタは、現代のAIを支える極限のインフラである。 地盤が強く地震が少ない、水害が少ない、電力の幹線が通っている、といった地理的条件から、データセンタに適した土地というのは意外と限られてくる。

代表的なのが千葉県の印西である。首都圏のITインフラを支えるデータセンタがこの地に林立している。

東京都内から電車で 1 時間ほど、千葉ニュータウン中央駅に降り立つ。 ニュータウンらしく住宅が並ぶが、その奥に地上数階から十数階建てほどの巨大な建物が林立する。 これがデータセンタである。 データセンタの建物を見分けるのはたやすい。窓がないからである。 まるで現代に立ち現れた「ぬりかべ」のように見える。

屋上に立つと、少し先に「赤青緑黄」の意匠が施されたぬりかべがある。

特別高圧受電設備、非常用ガスタービン発電機、冷却水チラー、気流を制御するキャッピング、免震構造の地盤。それらの土木・機械インフラがすべて整って初めて、規格化された無数のラックが立ち並び、何万枚ものGPUと光トランシーバが接続され、AIが計算を開始する。

このような巨大で冗長なシステムによって

会社で近くの神社に初詣に行ったとき、ベテランのインフラエンジニアが呟いた。

「最後は神頼みだからね。徳積んどかないと。」

どれだけ冗長系を組んだとしても、抗えない不確実性は残る。 今日もまた、ファンが轟くデータセンタの片隅で、祈りが込められている。

AI の名づけと擬人化